ヤングケアラーの元当事者、はしです。
ヤングケアラーに関する問題を論じるとき、たびたび、子どもにケアをさせる親が悪いという意見が聞かれます。
確かに、親が病気でケアをする子供がいたり、親が仕事に行っているから幼い兄弟の世話をしたりするケースはあります。
しかし、そうした状況を生み出すのは、親が悪いからという一言で片づけられるのでしょうか。
また、親は、子どもがケアをしている状況をどのように感じているでしょうか。
もちろん、親が子どもにケアをさせることについて、何も感じない場合もあるかと思います。
しかし、大半の親は、そうではないと思います。
他界した私の親も、申し訳なさそうな感じでした…。
かつての資本家のように、親が一方的に利益を得て満足することを理由に、子どもにケアをさせるパターンは滅多にないのです。
しかしながら、子どもがケアを担わないといけない理由があるのです。
この記事を見てわかること
- 子どもにケアをさせるのは、親が悪いのか
- ヤングケアラーの親が直面している問題
- 子どもにケアをさせる親の気持ち
なお、ヤングケアラーについての基本的な情報は、以下の記事でまとめております。
ヤングケアラーの定義とは?手伝いとの違いもわかりやすく解説します
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以下、ヤングケアラーの親について、私の経験も交えながら、述べていきます。
子どもにケアをさせるのは親が悪い?
ヤングケアラーが存在するのは、親のせいであるという意見が時々聞かれます。
確かに、親が子どもにケアをするように仕向けているということはあるかと思います。
例えば、
- 親がいないから小さな兄弟の世話をしなければならない
- 親が仕事で忙しいから、祖父母の介護をせねばならない
- 親が病気だから介護をしなければならない
- 親が精神疾患を患っているため、励まさなければならない
- 親が日本語を理解できないため、逐一、通訳をせねばならない
というように、親が起因することは多くあります。
しかし、だからといって、子どもにケアをさせる原因は親だと断言することは何の解決にもつながりません(以下、詳述します)。
ヤングケアラーが存在する理由を、親のせいにされるのは、ヤングケアラー本人にとっても、強い拒否感を覚えるはずです。親だけを責めることは、ヤングケアラーを責めることにもつながります。
背景を見る必要性
私たちが注視しないといけないのは、なぜ、親が子どもにケアをさせることになるのかということです。
例えば、ヤングケアラーの家族構成を見ると、ひとり親世帯が多いという調査結果があります。
ひとり親世帯では、家庭内で、労働力が不足することは目に見えています。頼れる人も限られてきます。
そのため、ひとり親世帯ではヤングケアラーが多く存在する傾向があるということになります。
また、家族構成ではなく、所得などでも説明できるかもしれません。
そもそも、親が病気になったり障害があったりすると、子どもがケアをすることになるかもしれません。
私の場合は、母親が病気になり、かつ、障害を持つようになったことから、ケアをするようになりました。
いずれにせよ、ヤングケアラーが存在する原因を、親だけに求めることは、あまりに酷で、不適切だといえます。
高齢化や福祉制度をもって、ヤングケアラーが生まれる要因を説明することも可能でしょう。
ここで、よくよく考えてみると、「ヤングではない」ケアラーであってもヤングケアラーであっても、存在する理由は、似通っているということがわかってきます。
「ヤングではない」ケアラーも同じ(But…)
ケアといっても様々な事柄が含まれますが、ここでは、介護を例に考えていきます。
(ヤングケアラーではない)大人が、親などを介護することは、たびたび、見受けられます。実際、介護離職などが問題となっています。
彼らが介護をしないといけない理由は、自身以外に介護を担える人がいないからでしょう(当然、放っておくわけにもいけないですし…)。
介護をするヤングケアラーも、基本的には、同じです。頼れる人がおらず、子どもであるにもかかわらず、大人が担うべき介護を引き受けざるを得ないのです。
小さな子どもの世話を、担うのも同様です。本来ならば、親が小さな子どもを世話すべきですが、親が仕事に行っているなどして、年齢が上の子どもが小さな子どもをケアしなければならないときもあるのです。
このような意味では、大人のケアラー、ヤングケアラーともに、ケアを担う理由は、あまり違わないのです。
しかし、ヤングケアラーが、ケアを担うことには大きな問題があります。
ヤングケアラーは、心身ともに大きく発達する年代の方々です。
それにもかかわらず、ケアをしなければならないため、勉強などの時間を取れず、心身の発達に影響がでる可能性があるのです。
ヤングケアラーの親の気持ちとは
では、ヤングケアラーの親は、子どもにケアを担っている状況をどのように思っているのでしょうか。
確かに、親が育児放棄に限定しない広い意味での(積極的)ネグレクトをしているパターンは考えられます。
その場合、親に代わり、子どもが兄弟の面倒を見たり、家事を担ったりする必要性が考えられます。
親に代わり、子どもが祖父母をケアしなければならないこともあるでしょう。
この場合、親は何も感じていないか、子どもがケアを担って当然と思っていると考えられます。
しかし、これは多数派ではないと思われます。
おそらく、多くの親は、感謝の気持ちを持っていたり、罪悪感を覚えたりしていると思います。
一方で、親は、子どもに依存しなければならないという状況に直面しています。すなわち、ジレンマに陥っているといえるでしょう。
親は、ヤングケアラーである子どもに、頼りたくなくても頼らざるを得ないわけなのです。
したがって、親は、ケアをする子供に対し、感謝の気持ちだけでなく罪悪感も持っているものと思われます。
私が介護をしていた母親も、私に対し、たびたび、「ありがとう」「申し訳ない」という言葉を発していました。
ヤングケアラーはケアをやめたいわけではないかも
ここで、一つ、注意するべき点です。
ヤングケアラーの全員が、必ず、ケアをやめたいと思っているわけではありません。
大切な親や家族のために、ケアをすることになるため、むしろ、誇りに思っている方もいらっしゃるかもしれません。
そもそも、自身が、ケアを担わざるを得ないヤングケアラーという存在であることに、気づかないことも少なくありません。
私は、ヤングケアラーになってすぐに新聞報道を見て、自分がヤングケアラーであることを自認しました(2016年のこと)。子どものときから新聞を読む癖があったのですが、結構、珍しい例だと思います。
しかし、ヤングケアラーがケアを担っていることを、美徳と捉えてはなりません。
やはり、支援が必要なことは言うまでもありません。
ただし、ここで言いたいのは、支援がケアの負担を軽減することだけではないということです。
もちろん、ケア負担軽減も必要な場合もあります。
しかし、同時に、(孤立対策なども含めた)伴走型の支援も必要なのです。
介護者(ヤングケアラー)や被介護者の様々な事情を勘案すると、ヤングケアラーを根絶するために、ただただ、ケア負担軽減だけに目を向けるのは望ましくありません。
ヤングケアラーがケアをしつつも、同年代の子どもらしい成長を育むための支援も必要なのです。
まとめ
ヤングケアラー問題について論じる際、親に対する風当たりが強い気がしますが、ヤングケアラーが生まれる要因を親だけに求めることはダメです。
親は、ヤングケラーである子どもを自分の利益のために搾取をしているのではなく、やむを得ず、子どもに頼らざるを得ない状況にある可能性があります。
世間のヤングケラーの親に対する偏見はなくされるべきだと、私は、強く思います。