当webサイトの管理者は、元ヤングケアラー・若者ケアラーです。そうしたこともあり、様々なヤングケアラー関連本を読んで、勉強をしております。
今回は、ヤングケアラーの知名度がほとんどないときに、ヤングケアラーの存在を広く知らしめた本の紹介です。
ヤングケアラーという言葉が、流行語になったのは2021年である一方、これから紹介する本は2018年に出版されている新書です。
その本とは、澁谷智子著『ヤングケアラーー介護を担う子ども・若者の現実』です。
ヤングケアラーは、自身がケアラーであることに気が付かないことがよくあるのですが、私は当時、ヤングケアラー関連の新聞記事(毎日新聞)を見て、「自分はヤングケアラーなんだな」と気が付きました。
※私は、子どものときから新聞を読んでいる珍しい人間でした。
その記事にコメントを残されていたのが、著者の澁谷氏。ヤングケアラー研究の第一人者です。また、それ以外の記事でも、たびたび、澁谷氏の名前を見ました。
今回、紹介する本は、2018年に出版されています。
その後、ヤングケアラーについて、広く知られるようになり、支援体制も当時と比べると大幅に構築されてきました。
ヤングケアラーの存在がほとんど知られていなかったときに出版された本であることを念頭に読んでいただけると、面白いかもしれません。
ヤングケアラーとは
まずは、ヤングケアラーの意味について説明をせねばなりません。
ヤングケアラーについて、著者も関わっておられる日本ケアラー連盟は、次のように説明しています。
家族にケアを要する人がいる場合に、大人が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、感情面のサポートなどを行っている、18歳未満の子どものことです。
日本ケアラー連盟ホームページより
第1章で説明がありますが、「ヤング」という意味には注意が必要です。
ここでの「ヤング」の意味は、若者ではなく18歳未満の子どもになります。一方で、18歳以上の若者のケアラーについては、「若者ケアラー」と呼んでいます。
児童・生徒とそれ以外の若者で、支援機関が大きく異なることから名称も分けた方がよいということで、「ヤングケアラー」(児童・生徒)と「若者ケアラー」(若者)が年齢で分けられています。
日本ケアラー連盟では、2023年から、本でも説明がありました「ヤングアダルトケアラー」という名称も用いるようになりました。日本では18歳~25歳までのケアラーのことを指します。
※第1章で「ヤングアダルトケアラー」についての説明もあります。ヤングケアラー支援の先進国、イギリスの分類方法です。
早い段階で調査をしていた!
この本は、2018年に出版されたと前述しました。
この時点において、ヤングケアラーに関する知名度はほとんどありませんでした。
私も、この時期は高校生で、母の介護をしていましたが、ちょうど、ヤングケアラーという言葉を知り始めたころです。
そんな中で、著者は、2013年に東京の医療ソーシャルワーカーを対象に、また、2015年に新潟県南魚沼市の教職員を対象に、2016年に神奈川県藤沢市の教職員を対象に、ヤングケアラーに関する調査を実施されていました。
こんなに早い段階で、既に、調査が実施されていたことにはびっくり。とはいえ、日本は、ヤングケアラー支援においては、決して先進国ではないのですが・・・。
ここでは、教職員を対象とした、南魚沼市、ならびに、藤沢市の調査について、少し触れておきましょう。
地域は違えど、似たような結果となったことは、特筆すべきでしょう。具体的には、以下のような事柄がわかってきたようです。
- ケアの対象は祖父母などの高齢者よりも、きょうだいや母親が多い
- ヤングケアラーのケアの内容は、身体介助よりも家事やきょうだいの世話が多い
- 子ども学校生活の影響は、欠席や遅刻が多い
- 子ども本人の話で、ヤングケアラーであることに気が付くことが多い
私も元当事者ですが、ケアの対象は母親でした。末期のときには身体介助も行いましたが、確かに、それよりも、家事や年の離れた弟の世話の方をたくさん行ってきたと思います。
そして、南魚沼や藤沢での調査は、実際に、ヤングケアラー支援づくりに役立てられたとのことです。
ヤングケアラーの存在がほとんど知られていない時期において、既に、ヤングケアラー支援について検討され、実施されていたことのは驚きました。
現在は、広く、ヤングケアラー支援が実施されていますので、南魚沼や藤沢の件は、先進事例ということができるでしょう。
ヤングケアラーの支援
第4章ではヤングケアラーの体験について記されていて、第5章ではヤングケアラーの支援について記されています。
ヤングケアラー関連の本では、必ず、ヤングケアラーの体験について記されています。この本についても、著者によるインタビュー形式で記されていました。
ヤングケアラーの大変さについて知ることができます。私も、共感できるものばかりでした。
こうした体験談を読むと、一言でヤングケアラーといっても、ヤングケアラーは本当に多様だということがわかってきます。
そして、第5章がヤングケアラーの支援についてです。
やはり、イギリスのヤングケアラーの支援方法を引き合いに、述べられています。
そうした中で、著者は、
ヤングケアラーがケアについて話せる場所をつくるべきである
ということを強調しています。
例えば、当事者同士が集って、ケアについて話する会などになります。
ヤングケアラーは、なかなか、自身がケアをしているということを周囲に言うことはできません。私もそうでした。
ヤングケアラーは、当然ながら、マイノリティーであり、周囲の人々が理解をしてくれないからです。
私は、性格上、友達がおらず独りでいることが好きだったので、実をいうと、そこまで、話せないことが問題にはなりませんでした(ヤングケアラーだったから、友達がいなかったというわけではなく、元々、いませんでした)。
ただ、そうした人も稀で、やはり、多くのヤングケアラーは、安心して、ケアについて話せる環境がほしいと思っています。
この本が出版されたのは2018年ですが、思えば、その後、埼玉県がヤングケアラーが安心して話をすることができるサロンを開設するなどして、ヤングケアラー支援を本格的に実施。
取り組みは、他の、都道府県や市町村にも広がり、例えば、私の住む県では、ヤングケアラーのサロンを運営している事業者に対して助成金を出す制度も設けられました。
本が出版されて数年の間に、ヤングケアラー支援が一気に進んだ印象があります。
また、
- ヤングケアラーの負担を軽減すること
- ヤングケアラーの理解をみんなが深めていくこと
も重要だと、著者は述べています。
ヤングケアラーをゼロにするというのは誤りで、伴走型で支援をするということが重要になります。
ケア経験を活かす
最後に、著者は、次のように述べています。
ケアを担った経験を持つ人の知見や理解が、多くの人が働きやすい環境作りに活かされ、社会もより強くなっていく、そんな仕組みを作っていけたらと願う。
澁谷(2018)p.195
今後、少子高齢化により、ケアを経験する人が増えることが予想されます。また、ヤングケアラーも増えてくるかもしれません。
そのような中で、私自身も、母のケア経験を、何らかの形で役立ててくれる方がいないだろうか・・・と思い、webサイトで情報発信をしております。
ヤングケアラーについての理解が深まり、そして、ヤングケアラーが生きやすい社会になっていったらと願っています。
なお、この本は、ヤングケアラーという言葉があまり知られていないときに出版され、広く、ヤングケアラーの存在を知らしめました。ぜひ、一度、手に取っていただければと思います。