「障害」「障がい」「障碍」
「しょうがい」の表記は大きく3種類あります。
※これら以外を提唱する動きもありますが、ここでは、割愛します。
それぞれ、どのようなイメージを抱くでしょうか。「全部同じではないか」と思われる方は、あまり多くないかと思います。
最近、こうしたいろいろな表記が見られるようになってきました。
それぞれの表記の違いはどこにあるのか、長所や短所も含めて解説します。
障害者を介護してきた身として、思うことも述べてまいります。
この記事を見てわかること
- 「障害」「障がい」「障碍」、それぞれどこで使われている?
- 「障害」「障がい」「障碍」のイメージ
- 「障害」「障がい」「障碍」の違い
「障害」「障がい」「障碍」、どれが絶対的に正しいのか、一概に述べることはできません。
しかし、それぞれの表記を使う意図はあります。その意図を理解していきましょう。
どこでそれぞれの表記が使われている?
では、 「障害」「障がい」「障碍」 の表記が、それぞれ、どこの機関で見ることができるのか確認します。
ここでは、国、地方自治体、メディアに焦点をあてて述べます。
国は?
国が「しょうがい」の表記について、正式な見解を示しているわけではありません。
国は、「「障害」の表記に関する検討結果について」という資料を出してはいるのですが、結論は出ませんでした。
ただ、法律や政府の文書には、「障害」と表記されています。
国は、「障害」という表記を用いているといってよいでしょう。
地方自治体は?
では、地方自治体はどうでしょうか。
各地方自治体によって、見解は異なっています。
それ故、「障害」だけでなく「障がい」や「障碍」を用いる自治体があります。
もともとは、「障害」を用いていたものの、「障がい」に改める動きが、自治体の中で2000年代から少しづつ増えてきました。
「障碍」については、ごくごく少数の自治体が採用しています。
メディアは?
メディアは、国と同様に、原則、「障害」と表記しています。
NHKの放送用語委員会は、「しょうがい」の表記について議論しています。
それによりますと、原則は「障害」という表記を用い、固有名詞などは「障がい」や「障碍」を用いることもあるとしています。
その他の大手メディアについても、私が確認した限り、上記と同様の対応をとっています。
「障害」はダメなのか
地方自治体では、「障害」を「障がい」に改める動きが結構ありました。
なぜ、そうした動きが見られるのでしょうか。「障害」の表記はダメなのでしょうか。
「障がい」と表記する意図
地方自治体の一部は、なぜ、「障害」ではなく「障がい」と表記するところがあるのでしょうか。
それは、「害」という字が持つイメージが良くないというところにあります。
「害」がつく以下の熟語を見るとよくわかるかと思います。
「害」という字が持つマイナスのイメージから、一部の自治体は、「障がい」と表記するようになったのです。
また、「障がい」という表記が広がっていったのです。
「害」という字をひらがなで表記することは、障害者への配慮であるという考えが背景にあります。
障害・障害者は邪魔である、というようなイメージが存在することを考慮しているといえるかもしれません。
「障がい」と表記する問題点
しかしながら、「障がい」と表記することは問題であるという意見もあります。
というのも、「障がい」と表記することは、医学モデル(個人モデル)の基づくものだからです。
医学モデル、もしくは、個人モデルは、障害の所在を障害者本人に求める考え方です。
一方で、社会モデルというものもあります。
社会モデルとは、障害の所在を、社会の環境に求める考え方です。
例えば、車いすユーザーが外出できない要因を考えてみると、「足が動かないから」というのは医学モデル、「段差があるから」というのは社会モデルです。
障害の所在はどこにある?医学モデルと社会モデルについて解説!
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したがって、「障がい」と表記することによって、障害者が社会で直面している課題を見えなくしている可能性があるのです。
障害者は、むしろ「被障害者」であるという社会モデルに立つと、「害」という字は消すべきではないという考えもあるのです。
「障碍」について
では、「障碍」はどうでしょう?「障碍」は、もともとは仏教用語です。
議論になりそうなことは、「障碍」が医学モデルか社会モデルか、どちらに基づいているのかということです。
「障碍」の語源をたどると医学モデルではないか、一方で、「碍子」という言葉などが一般的であることから社会モデルではないか、と様々な意見があります。
しかしながら、「碍」という字は、一般的に使われていません。常用漢字ではありません。
そうしたことから、「障碍」はあまり使われていないのです。
結局どれが正しいのか
以上、 「障害」「障がい」「障碍」 、それぞれの長所と短所を述べてきました。
ただし、留意いただきたいのは、どの表記が正しいかは一概にいうことはできないということです。
全ての表記には、それぞれ意図があります。
重要なのは、それぞれの表記の意図を理解することです。
表記問題を通じて、障害について様々な考えがあるということを、理解できるかと思います。
当サイトは「障害」と表記している
なお、当サイトでは、「障害」と記しています。
上で説明した通り、社会に障害があるという「社会モデル」を重要視してのことです。
障害者が暮らしやすい世の中にするには、社会が変わらねばなりません。
社会とは、資本のみならず、構成員一人ひとりの考え方も含まれます。
骨肉腫の母を介護していて、今の社会は障害者が暮らしにくいということを実感しました。そうしたことから、「社会モデル」を重視したいと私は考えています。
表記云々よりも…
以上、「障害」「障がい」「障碍」 、それぞれの表記の意図について解説してきました。
しかしながら、表記を変えるだけでは意味がありません。
表記だけを変えても、障害者への偏見は減らないですし、障害者が生きやすい社会にはならないでしょう。
大切なのは、障害者が暮らしやすい社会を構築することです。
用語法について議論する意味がないとは言いませんが、実践が伴わなければ意味がありません。
私は、障害者を介護してきた身として、障害者が暮らしやすい、生きやすい社会をどのようにつくっていくべきなのか、これからも考えていきたいと思います。