障害とは何か?障害者は何をもって障害者と呼ばれているのか?
今回は、こうしたお話をします。
実は、障害の考え方には、医学モデル(個人モデル)と社会モデルの2種類があります。
障害の所在をめぐって、両モデルの考え方が異なります。
すなわち、医学モデルと社会モデルとで、障害の規定方法が全く異なります。障害とは何かという答えが変わってきます。
また、障害・障害者について考えるうえで、近年重要になっているのは、社会モデルです。
なぜ、社会モデルが重要になってきているのかも含めて述べます。
障害のある身内を介護してきた経験を活かして、述べていけたらと思っています。
やや学問的な内容となるかもしれませんが、できるだけかみ砕いて説明していきます。
この記事を見てわかること
- 医学モデル(個人モデル)と社会モデルの違い
- 医学モデルと社会モデルの具体例
- 社会モデルが近年重要になってきている理由
医学モデル(個人モデル)とは
まずは、医学モデルについて説明していきます。個人モデルともいいます。
医学モデルとは、障害のありかを障害者個人に求める考え方です。
心身機能が、直接、不利を生じさせているということになります。
例えば、足が動かない車いすユーザーについて考えてみましょう。
医学モデルならこう考えます。
医学モデルの例
足が動かず車いすに乗っているから、階段を上ることができない。外出をすることができない。
そして、車いすユーザーは、できる限りリハビリを試みて、車いすに頼らない生活を送られるように努力するでしょう。
いかがでしょうか。
おそらく、多くの人々は、医学モデルで、障害を規定していることでしょう。
例えば、障害者福祉サービスや介護保険制度も医学モデルの考え方にのっとっています。
しかし、一方で、
- リハビリができなければ、どうなるのか
- 高度の医療や本人の凄まじい努力では治らない障害はどうするのか
ということが問題となってきます。限界が生じてきます
医学モデルでは、捉えられない”障害”があります。それが次に紹介するモデルです。
社会モデルとは
医学モデルでは捉えられない障害について、説明しているのが社会モデルです。
社会モデルとは、障害のありかを社会に求める考え方です。
障害のない人(マジョリティ)によってつくられた社会が障害を生み出していると考えるです。
心身機能が、社会的障壁によって、不利にさせられているということになります。
こちらも、車いすユーザを例にだしましょう。
社会モデルならこう考えます。
社会モデルの例
階段があるから、車いすでは移動できない。段差があるから、外出をすることができない。
こうしたことを解決するためには、社会的障壁が取り除かねばならないのです。
上記の例の場合、エレベーターやスロープを整備・設置することによって、障害が解消されます。
社会的障壁とは、いわゆる階段や段差などの物理的な障壁だけではなく、障害者はこうあるべきだという人々の偏見なども含まれます。
社会が変わらなければ、障害は永遠に残り続けるのです。
社会モデルに立つと、障害者は、被障害者とも言い換えることができるでしょう。
ここまでのまとめ
- 医学モデル → 障害のありかを障害者個人に求める
- 社会モデル → 障害のありかを社会に求める
医学モデルと社会モデルで、障害の規定の仕方が異なることがわかったかと思います。
では、医学モデルと社会モデルのどちらが重要なのかということが問題となります。
結論から申し上げると、社会モデルが重要です。
なぜなら、これまで考慮されてこなかった考え方だからです。
医学モデルの考え方を排除するべきとはいいません。
もちろん、障害を医療の力で治したいという方の意見は尊重されねばなりませんし、社会福祉というものも必要です。
しかし、一方で、(医学モデルで規定される)障害を自分の特徴として生きていきたいという意見も尊重されねばなりません。
実際に、社会モデルが現代的潮流になっています。その点を次に述べます
近年重要になってきているのは社会モデル
社会モデルの考え方が初めて大きく取り入れられた条約として、2006年12月に採択された障害者権利条約があります。
障害者権利条約の前文には、以下のような記述があります。
(前略)障害が発展する概念であることを認め、また、障害が、機能障害を有する者とこれらの者に対する態度及び環境による障壁との間の相互作用であって、これらの者が他の者との平等を基礎として社会に完全かつ効果的に参加することを妨げるものによって生ずることを認め、(後略)
障害者権利条約全文より引用
障害は、医学モデルではなく社会モデルで捉えられなければならないと言っているのです。
障害者権利条約は、社会モデルで障害の考え方に立っています。
日本は2014年1月に批准しました。
そして、これを受け、日本では、障害者権利条約の批准を受けて、障害者差別解消法(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)を制定しました(2016年4月施行)。
これまで、障害者を社会モデルでとらえられることはほとんどありませんでした。
しかし、国連が障害者権利条約を採択し、障害を社会モデルで見るということが現代的潮流となっています。
確かに、だからといって、医学モデルの考え方を捨て去ることは難しいかもしれません。
医学的サポートが必要ないとはゆめゆめ申し上げません(社会モデルでは、社会的障壁によって医学的サポートが必要な人に届いていないと考える)。
しかし、医学モデルだけで障害を捉えることは、時代遅れです。
一度、社会モデルに立って、障害者について考えてみてください。私は、車いすの母を介護していましたが、社会的障壁がたくさんあることを実感しました。社会的障壁こそが、障害であると確信しました。
障害・障がいの表記問題も
実は、「障害」・「障がい」の表記についても、医学モデルや社会モデルで議論されることがあります。
2000年代以降、一部地方自治体では、障害者を配慮すべく、「障害」から「障がい」へと表記を変更する動きが相次ぎました。
しかし、「障がい」という表記は、障害者が社会で直面している課題を見えなくしているという批判があるのです。
すなわち、「障がい」の表記は、医学モデルに基づいていて、現代的潮流に反するというのです。
詳しくは、以下の記事をご覧ください。
「障害」「障がい」「障碍」の表記の違いはどこにある?
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このように「障害」・「障がい」の表記問題についても、医学モデルと社会モデルを用いて議論されているのです。
まとめ:私たちも変わろう
- 「仕方がないから障害者を受け入れてやろう」
- 「障害者は情けをいただく存在だから、黙ってろ」
- 「障害者はかわいそうだ」
障害者を上記のように考えたことはないでしょうか。
実は、こうした考えこそ、医学モデルにたっている証左で、かつ、社会的障壁であるといえます。
障害を社会モデルでとらえ、社会的障壁をなくすには、健常者(マジョリティ)の障害者に対する偏見や思い込みも無くす必要があります。
したがって、行政のみならず、社会の大多数を構成する健常者も変わっていかねばならないのです。
社会モデルをもって障害について考えることから始めてみてください。